遺跡の深層
5 姉崎妙経寺貝塚の貝層断面の剥ぎ取り 忍澤成視
 姉崎妙経寺貝塚は、市内では珍しい海岸付近の低地に立地する貝塚です。貝層中からは、土器や石器のほか、魚や動物の骨も多くみつかり、貝層の堆積も最大1.2mと極めて良好な状態でした。そこでこの状態を部分的に保存する目的で、特殊薬品を使った「接状 剥離」という方法で貝層の一部を剥がし取る作業をおこないました。
写真 妙経寺貝塚の貝層断面

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貝層断面の清掃


 剥がし取る貝層断面を写真・図面などで記録したあと、断面がなるべく平らになるように清掃します。
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薬剤を塗る


 貝層断面に、特殊な薬剤を塗り、貝層表面や内部にしみこませる。
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水をかける


<2>の薬剤は、水と反応すると接着力があらわれるので、薬剤塗布後にまんべんなく水をかける。
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布を貼り付ける


 貝層断面を接着させる布を貼り付けていきます。布の上からもさらに薬剤と水をかけ、 しっかりと布に貼り付くよう貝層断面の凹凸も手を使ってなじませていきます。
 
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貝層を剥がし取る


 1日ほど放置しておくと、薬剤は完全に固まります。接着具合を確認しながら、貝層の上部から剥がしていきます。
 この貝塚は砂堆上に形成されたもので、貝層の基盤は砂です。砂は土よりもはるかに重いため、剥ぎ取られた貝層の重量は私たちの想像をはるかに超えるほどのものでした。貝層下部の砂層から貝層上部の現地表面までおよそ2m、長さ8mの貝層の剥ぎ取りは、数名の職員と大勢の調査補助員の協力で斜面下からやっとの思いで引きずりあげて終了しました。
写真 完成状態
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パネルに貼り付ける


 剥ぎ取った貝層断面は、さらに特殊な薬品を使って木製のパネルに貼り付けました。写真右端にあるスケールは高さ2mを示しています。発掘現場では、狭い溝(トレンチ)の中でしか見られなかった貝層の全貌を一目で見ることができます。貝層の厚さと見事な堆積のしかたに圧倒されます。

展示

 貝層の剥ぎ取りの目的は、貝塚の一部をできるだけそのままのかたちで保存することと、より臨場感のある展示物として活用することにあります。妙経寺貝塚の剥ぎ取りは、平成17年夏に開催された山梨県の博物館の特別展で初めて披露され、実物資料、そして原寸大の存在感によって見学者を驚嘆させました。
 その後、この剥ぎ取りは、文化財センター内の通路壁面に常設展示されています。
 <貝層の画像はこちら(!!右クリックで「保存」を選択!!)>
 <巨大7.5MB大2.6MB小0.6MB:それぞれ50・25・10dpiで実寸(約8×2m)になります。>